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バイオリン上達への近道(2)をお送りします。前回はモーツァルトのエピソードをネタ に、音感を鍛えることが究極の「バイオリン上達への近道」であるというお話をしました。それでここ2・3回は音感を鍛えるための練習についてお話したいと思います。
前回私は「モーツァルトは楽譜を見たとたん、彼の耳には自分が発音すべき音が響き渡っていたはずだ」と言いました。つまり、「自分の出すべき音を頭の中に浮かべる」ということが、楽器の演奏には特に大事なことだと思うのです。そしてこれが出きる人は、間違いなく究極の「バイオリン上達への近道」を歩くことができる人だと思います。正しい音を頭の中に思い浮かべる事が出来ると、1)自分の発音する音の善し悪しをその都度耳で判断す
ることが出来ます。その上、何より、2)この耳によって、頭の中の音との瞬時の比較判断を続けていると、そのうちには正しい音を思い浮かべるだけで”自然に”あるいは”勝手に”
指がそのポイントに行くようになるんです!!
この2)については非常に重要ですが、「エー ホント!!そんな馬鹿なこと」という声が聞こえてくるような気がします。しかしこれは実際に私が体験したことなので、紛れもな
く本当のことです。私は前回、「オーケストラで涼しい顔で弾いている人の境地を覗いてみたいと思った。」と書きました。私はある時、突如としてこの2)を実体験したんです。そのとき私は畳の上にゴロンと仰向けになってつぶやいていました。
「あー、そやったんかぁ・・・・」
思いつめていたことのほんの一部を、遠くからだけど少しだけ覗けたような気がして、何だか感慨無量といった気分でした。それはそうです、実は覗いてみたいと決意してから実に30年近い年月が流れていたのですから。逆に言えば、だからこそこんなことを大袈裟に取り上げ、こんな所で自分の言葉で力説できるのだと思います。子供の頃からバイオリンを弾いていてうまくなって来た人には、恐らく人にこんな説明はできないでしょう。勝手に指がそこへ行くのは彼にとってはそれが当たり前だし、そんなことを取り上げて考えてみたこともなかったに違いないのです。彼らが初心者に対して、上手く説明できない理由はこれだったのです。少し脱線しましたがもう一度いいます。あなたは、耳の開発がある程度進み、正し
い音を思い浮かべる習慣が板に付いた時、あなたは「正しい音を思い浮かべるだけで自然に指がそのポイントに行ってくれる。」ようになります。この思い浮かべる習慣というのは、
あらかじめその楽譜をピアノで音を確認したり、上手な人に弾いてもらったり、CDを聞い たりして曲を覚えてもいいのです。とにかく楽譜を見た時に自分の出すべき音が思い浮かべられる状態にしておくことが大事であると思います。話題を変えましょう。あなたはオー
ケストラでA音を合わせる時、オーボエの音に合わせることと思います。しかしこんな独り言を言っていませんか?「オーボエの音に合わせるの苦手やなぁ。いつもせんせの叩くピア
ノで合わせてるもんなぁ。音色が違うから分かれへん。」こんな不服を言っているうちは、まだまだ音感が鍛えられてません。オーボエの音は実に素晴らしく、練習場を圧倒して響き渡っているでは有りませんか。あなたはこの音をまず自分の中に取り込まねばなりません。そ
して自分の頭の中に思い浮かべるようにするのです。そして自分の頭の中に浮かんだ音を自分の楽器に移すように、音合わせをするようにしてください。それも弓をせわしくガチャガ
チャ動かせて合わせるのではなく、むしろ優雅にゆっくりといわゆるロングトーンで、大きすぎもせず小さすぎもしない、できるだけ均質な音を出すように心がけたいものです。こんなときでもボウイングの練習と耳の訓練を貪欲にやることができます。オーボエの音を頭の中に思い浮かべて音合わせをする。このときのあなたの頭の中には、オーボエとかバイオリ
ンとかの音色に関係のない、ただ単なる素朴なA音が響いていることでしょう。この習慣が身につけば、音色の違いなど全く関係がなくなり、楽に合わせることが出来るでしょう。
あなたは、あなたがバイオリンをなさっているということを初めて知った人からこんな質問を受けたことが有りませんか?「バイオリンはギターと違ってフレットがないから音をと
るのがむずかしいでしょう?」と。この質問は「ほおっ、高尚な趣味ですね。」という反応 と並んで良く発せられます。世間の人と同じように私自身も、「正確な音は、バイオリンの指板上の正確な距離を体に覚え込ませるように繰り返し練習することによって達成できる。」
と思い込んでいました。そこで私が思い付いたのは指板の模型を作ることでした。どこからか木を拾って来、これを削りこんでネックの部分から第4ポジション付近までの指板の模型を作り、これに弦の形まで彫り込んだんです。そして第2・第3・第4ポジションの位置に切り込みを入れ、これを常に持ち歩きました。これを頃合いを見計らって、通学の電車の中や授業中等にかばんの下に隠しながら、左手をスッ・スッと動かせ、ポジション練習をしたものです。その頃、仲間にこの話をすると大概の人が「それはええ方法やないか。そんな便利なもんあるんやったら貸してくれへん?」と興味を示したものです。しかし残念ながらこの方法
は、全く何の効果もありませんでした。距離感を体に覚え込ませることにやっきになってい たあの頃は、本当に途方もない回り道をしていたのです。距離感を養うということに費や
した若いエネルギーと時間を、音感を養うことに費やしていたらはるかに効果があがったのにと思います。
しかし今から思うと良い練習もやっていました。それは、オーケストラの曲を練習する時に、とりにくい音程の個所はピアノの鍵盤を鳴らしながら音を覚え、それからバイオリンを弾いて練習していたのです。これはまさしく、発音すべき音を頭の中に再現させながら練習するという理にかなった練習方法にたまたまなっていたのでした。これは非常にてっ取り早
くて良い練習方法だとは思っていまたが、当時はあくまでもオーケストラの演奏会に間に合わせるための、緊急避難的な簡便法としか思ってなかったのでした。
このように、「音を思い浮かべる」ということは、チョットその気になればいつでも経験することが出来ます。この経験度数が多ければ多いほどあなたは究極の近道へ近づくことになります。このような経験を計画的に、習慣的に体験する事ができれば、これは非常に効果的な練習ということが出来ると思います。そんな練習方法はないのでしょうか?それがあるんです。そうです、ここに登場するのが”音階練習”なのです。
いつだったかレオニード・コーガンというロシアの大バイオリニストが来日し、公開レッスンを開いたことが有りました。それは関西弦楽指導者協会の主催で、
まあバイオリンの先生が主な対象だったようです。勿論我が先生も参加されました。その時のお話を先生から聞く機会があったのです。ある先生が質問したそうです。
「生徒に課すべき最も重要な練習は何でしょうか?」と。するとコーガン先生は一言叫ばれたそうです。「スケール!!」と。何故音階練習がそんなに重要なのでしょう?最近やっと私にもそれを人に説明することが出来るようになりました。つまり、音階練習こそは究極の「発音する音を正確に頭の中に思い浮かべる訓練のための有力な練習素材」
だったのです。この事をもう少し詳細に私の考えを述べてみます。 音階はこの世の中で最も単純で、誰でも口ずさむことの出来る唯一の楽譜でしょう。つまり、自分には出来ないと思っていた「楽譜を見てその音を頭の中に思い浮かべる」行為が、どうです?音階なら出来
るでしょう?そしてもう一歩前進するならば、その次に思い浮かべ易いのがアルペジオとい うことになるのです。今まであまり熱心に音階練習をやっていなかった方は、どうか音階教本の最初からやって頂きたいのです。最初は「1stポジションにおける長短音階とアルペ
ジオの練習」から始まり、2オクターブ、3オクターブと進みます。しかしその間に細かい ポジション移動等の練習楽譜も有りますが、これは省いてもいいと思います。何故なら、最
も重要な3オクターブの練習に行き着くまでに嫌になってしまう恐れがあるからです。そし てVnを始めて半年から1年くらいで無理矢理最も重要な3オクターブの音階に挑戦してほしいと思います。ホント無理矢理にです。この3オクターブの音階練習の楽譜は、ハ長調から順にフラットが増え、シャープ6つから1つになって終わるように書かれています。勿論、
これをそれまでの音階練習と同じように、最初から終わりまで途中省かずに全て弾くのです。転調する前のコードも省略せずにちゃんと弾くことが大切です。何故なら、こんなことがこ
の一見単調で退屈な練習にアクセントを付け、面白味を感じるきっかけになるのです。まあ最初のうちは30分はたっぷりかかるでしょう。慣れれば15分くらいかな?即ちゆっくり弾けばいいということなのです。ここで注意すべきはホント全て弾くことです。音階練習とい
うと「ドレミ - - - 」のことと勝手に解釈して、アルペジオ「ドミソドミソ - - - 」 「ドファラドファラ - - - -」を省略する人が居ます。また、♯や♭が5つも6つも付く調性は苦手なので「こんな曲はあんまりないから」と自分に都合の良い解釈で省略する人も居
ます。しかしこれでは効果半減です。アルペジオこそは、実際の曲の中に良く出てくるので、 音感養成もさることながら、フィンガリングも含めて実に応用が利く音型パターンなのです。
それに♯や♭がたくさん付く調性、特に♭の方こそは弾くために耳を頼りにせねば弾けないので耳の訓練にはもってこいなのです。調号の少ない調性なら、私も良くやりますが、常
に頭の中でこの調性は「FとCが上がるんだ。」と言い聞かせながら弾くことでも何とか間に合います。しかし調号が多い調性は、このやり方ではどうしても「付け忘れ」が出ます。特に♭の方は開放弦が使えなくなってくるので、耳を頼りにする方がかえって楽になってきます。つまり、馴れてくるとこれも”勝手に”指がそこへ行ってくれるようになります。そ
こまでならなくても、少なくとも調号の多い調性に対する恐怖心が無くなり、曲の途中で転調して♭が5つも付いた中間部の何小節かを飛ばさざるを得なくなった、なんてことも無く
なります。こんな所にも耳を鍛える要素があるので、苦しいかも知れませんが省略無く練習 されることをお奨めします。また、この音階教本にはどの曲にも応用できるフィンガリン
グの基礎がちりばめられています。そうです、3オクターブの音階はこれを弾くのにもテク ニックが必要です。つまり3オクターブの音階練習をすることによって、音感は鍛えること
は出来るし、応用範囲の広いテクニックを身につけることが出来る正に一石二鳥の世界です。 この3オクターブの音階練習は毎日必ずやるべきです。3ヶ月いや1ヶ月続けてみて下さい。貴方は不思議な面白さを体験するようになります。不思議な面白さ?ーーーーそうです、もう不思議な面白さとしか言いようがないのです。この面白さを体験出来るようになればしめたものです。貴方はこの音階練習を継続して練習することが可能になり、飛躍的に上達していく
でしょう。1ヶ月で面白味を体験できなかったら2ヶ月続けてください。2ヶ月で足りなか ったら3ヶ月------。ちなみに私は約1年位かかったと思います。勿論そこがゴールではあ
りません。出発点であることは言うまでもありません。あくまで、頭の中に音を思い浮かべる練習を継続化、習慣化させることこそ重要と思うからです。
バイオリンの神様、と世界中のバイオリニストから尊敬と羨望の目で見られていたヤッシャ ・ハイフェッツ 。彼はこう言ったそうです。「もし神が私の練習時間を1日1時間しかくださ
らなかったとしたら、私はそのうちの50分を音階練習に費やすだろう。音階練習さえやっておけばその他のレパートリーなどは10分もあれば十分である。」
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