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「バイオリン上達への近道」は、いよいよ今回で最終回にしたいと思います。 色々と書かせていただきましたが、この私の長文にもう一回だけお付き合い下さい。 「達人」という高い山があって、私はそれを目指していましたが、回り道をしてしまってむしろどんどん遠ざかってしまった。ある日ひょんな
ことから、少しだけ小高い丘に上がったので見回してみると、あーあんな所 に「達人」への近道があるではないですか。あそこで気がついて いれば、こ
んな所までこなかったのだがと思っても後の祭り、もう戻れません。私は、この少し小高い丘からせめてもう少し小高い小山へ行くのが残された道なのです。「みな
さんは、私が歩いた道は歩かないように、私が見つけたあの近道を歩いて下さい。」とい うのが私のメッセージなのです。ただひたすら上手な人の境地を覗きたいと思い続けてきて、それがある日突如として覗けた気がしました。それが凡人よりむしろ鈍くさい目の私が覗いたという事、
そしてそれを、専門家の言葉を借りるのではなく、私自身の言葉でお話しできることに意味があるのだと思っています。
さて、この最終回で言いたいことは「遊び心」です。貴方はこんな経験をしたことがあり ませんか。ある合奏会場で、休憩時間になりました。あなたは、子供の頃からやっていそうな人から声をかけられました。「ちょっと遊びでカルテットしません?」貴方は、この合奏の練習に来るときも、必死で家で練習してきたのに満足に弾けていませんでした。そ
れなのに、その上初見でカルテットなどとても出来ないと思い、「そんな私などとても」 と断ってしまった。しかし本音はいつかはやってみたいとは思っているはずです。それが自分自身の、何かこう固い殻のようなものがあって自分を「遊び」から遠ざけているので
す。
「継続は力なり」といいます。上達するまでにはいろんな障害があることも多いと思いま す。それを乗り越えて継続することが絶対条件であることは言うまでもありません。ブランク期間もあるでしょう。しか
しこのようなことがあっても、いつでもまた復帰できる心のエネルギーが必要です。このエネルギーが何から得られるかというと、私は「遊び心」と思
うのです。日本人は、よく 「- - - 道」という言葉を好みます。何かの達人になるためには、そこにある種精神的要素を盛り込み、自分を高める事が必要だということなのでしょう。このことは、世界に誇りうる日本の伝統文化を築いた根本的な考え方であり、我々日本人が大事にしなければならない精神であるとは思います。しかし、だからといってなんでも上達するためには、まるで修行僧のような苦しい練習に耐えねばならないと考えてしまうのもど
うかと思います。これでは長続きさせるのも容易ではありませんし、何か障害があってブラ ンクが出来ると、もう恐らく復帰できないのではないかと思います。そこに「遊び心」で復帰することが必要となってくるのだと思います。簡単に言うと、楽しいことにはいつでも戻
れるというわけです。その具体的な方法は、仲間を作り仲間と一緒に音楽を楽しむと言うこ とです。バイオリンの場合、お奨めするのは一つはカルテットであり、一つは多人数
による合奏です。カルテットは確かに難しいのですが、モーツァルトの初期の作品は我々に最適です。これらの作品を、初めの内はゆっくりとしたテンポで次から次へ弾き散らかすのです。べつに出来不出来は関係ありません。次から次へと弾き散らかすのが良いのです。実は私の場合このことが、「自分は駄目だ」という劣等感や引っ込み思案に固められた固い殻を、
少しでも打ち壊すのに非常に役に立ったのです。大げさに言えば「自己の解放」でした。ただし出来 るだけ、仲間のレベルは合わせる方がいいと思います。付き合っていただけるのであれば、上手な人に超したことはありませんが、大事なことは「自分の下手さ加減」を全
てさらけ出しても、恥ずかしくない相手が必要です。こうして徐々に完成度を高めていくよ うにすれば、1・2年後にはかなりレベルアップしているはずです。そしてある程度初見の力や基礎的な合わせる技術も付き、今後の「遊び」に非常に役立つことでしょう。このカルテットは、出来る限り続けるのがよいのは言うまでもありませんが、問題は仲間探しでしょ
う。私の知人などは、ちょっと楽器を持っている人を見かけると片っ端から声をかけていた人もいますが、これはいくら何でも普通の人には無理でしょう。合奏団に入っている人なら、
その中から見つけるのがいろんな意味で最良の方法です。入っていない人でも、今はAPA (エイパ)という団体があって、その活動に参加したり、名簿を活用する方法もあります。
このAPAという団体は、そういう目的で設立された団体ですから案外簡単に見つかるかも 知れません。私もAPAにはかなりお世話になりました。もう一つは合奏団です。これ
は既成の合奏団に、気に入ったのがあれば言うことはありません。これもAPAで調べるこ とが出来ます。しかし、私の場合は大学オーケストラで懲りていたので、自分が理想とする
合奏団を自分で作ろうと思いました。もし、そんなことを考えている方がいらっしゃったら、参考になると思いますのでお話しします。
1)バロックの弦楽合奏
最初に根本方針を立てる必要があります。我々に最も適しているのは、バロック音楽中心の弦楽オーケストラです。管弦楽団だと曲によってはメンバーの中に、楽譜に使われてい
い楽器も出てくることもあるので運営が困難です。常に全員が参加できるようにと考えるな らば、弦楽オーケストラが最適です。管楽器が入る曲をやる時には、外部から連れてくればいいのです。
バロック音楽には、そんな弦楽合奏曲集がたくさんあります。 そして第一今 まで知らなかったいい曲がたくさんあり、技術的にもなんとか取り組める曲も多く、間違いなく楽しめます。まずビバルディの作品3のシリーズから始めるのがいいでしょう。
2)メンバーの募集
最も苦労するのがメンバーの募集です。懇意にしていた名曲喫茶店に募集のポスターを貼らせてもらったり、市の教育委員会に登録してもらったり、APAの名簿で片っ端からはが
きを出したりと色々しました。やはり最も効果的だったのが、後輩の大学オーケストラ卒業生に声をかけることです。 そしてそれがまた新たな後輩を連れてきてくれます。そのうちには、APAに聞いて電話をくれる人も出てきます。これは軌道に乗るまでは気長にやるしかありません。
3)出席率100%を目指して
基本的には、楽しい合奏をすることがまず第一ですが、最も重要なことは「演奏会をやら ない」ことです。大概の合奏団では出席する人を確保するため、あるいは目的意識を持つと称して演奏会をやるようですが、私の考えではこれは逆効果です。演奏会が近づくと、演奏会をやるというプレッシャーと仕事や家事の多忙さのやりくりで、かなり無理をして練習に出てくることになります。そして、演奏会が済むと「アーヤレヤレ」とばかりに、欠席する
ことになってしまうのです。こうしてみんなが出席してくるのは、本当に演奏会直前の1ヶ月位だけで、あとは来たり来なかったりの歯抜けの合奏になってしまいます。これでは大学オーケストラと全く同じです。
4)楽しい合奏にするには
楽しい合奏は、メンバーが全員ある程度自分の力が発揮できるようにし向けることが重要です。一部の人だけが涼しい顔で弾いていて、弾けなくて不完全燃焼している人がいるようであれば駄目です。これではその一部の人だけが楽しみ、大部分の人は楽しめません。いやその一部の人も、そのうち楽しめなくなってくるでしょう。だれしも自分の力を十二分に発揮して合奏に参加したいと思っているのです。その気持ちを満たしてあげることが重要です。そのためには
a.その曲の表情をどうつけるか、十分研究し、出来れば各パート譜に最初から書き込ん で置く。
b.指揮者の要求にあった合理的なボーイングと合理的なフィンガリングを研究し、各パ ート譜に最初から書き込んで置く。
c.上記の作業が完了したら、合奏の日の少なくとも2週間前にはメンバーの手元にパー ト譜が届くように手配する。
これらのことは確かに大変なことですが、つまり、メンバーの方が個人練習しやすいよう にお膳立てをすると言うことです。これでも練習もしてこないし、欠席もするという人も必ず出てきます。そのような方は、放っておけばそのうち来なくなります。かくして自然淘汰
され、合奏団には熱心な人ばかりが残って出席率100%と言うことになってきます。しかし上 記のa.b.c.はどれも非常に困難なことで、最初から完璧なことが出来るはずがありません。試行錯誤と言うことも経験するでしょうが、それでいいのだと思います。a.は当然
指揮者の力量に依るところが多いと思います。我々メンバーが熱心に練習すればするほど、指揮者もそれ相応の研究とわかりやすい棒の振り方を練習すべきです。また、b.はコンサ
ートマスターが、指揮者と相談して決めていくのが理想です。あくまでもa.は指揮者b. はコンマスの仕事であり、間違ってもお互いの領域に踏み込んで自分の考えを押しつけるのは禁物です。この二人が熱心な人であればあるほど、プライドを持っています。そのプライ
ドを刺激するのは不仲の元になるおそれがあります。指揮者は「どんな音が欲しいか」と言 う点と「どんな振り方をすればわかりやすいか」を常に考えることに集中し、コンマスは
「指揮者の求める音を出すにはどうすればよいか」ということと「合理的なボーイングとフ ィンガリングの研究」に集中すべきです。そしてこの「合理的なボーイングとフィンガリングの研究」に非常に役立つ本が、イヴァン・ガラミアンの「バイオリン奏法と指導の原理」
なのです。こう書いている内に、昔指揮者と一杯やりながらボーイングを検討した思い出が、懐かしく思い出されてきます。このような検討とか研究はむしろ楽しいものなのです。
しかし、これを長年連続して続けるとなると非常に困難なものになります。必ず仕事や家事で思うに任せないときがやってきます。これを乗り越えるためには、自分の考え方を強固に持っておく必要があります。私の場合は、何を優先という風には決めずに、どれも大事なの
だから並列して考えることにしていました。私たちはややもすれば仕事を優先せざるを得ないこともあります。しかしいつもいつも仕事を優先させるばかりでは、絶対長続きしませ
ん。意志を強固に持って両方を同価値に置くのです。そうすることによって、合奏活動やカ ルテットの活動が長続き出来、それがバイオリンを継続させる原動力にもなるのです。まあこのカルテットなども、コンピュータ音楽の応用で、他のパートを入力してマイオーディオ
から演奏させ、自分のパートだけ自分が実際に弾いて楽しむという方法も可能です。みなさんそれぞれ工夫してみて下さい。それでは長いシリーズでしたがこれでいったん完結と言うことにします。今後、新しい情報や新たに分かったこと、あるいは間違っていたことなどありましたら、その都度改訂更新していくことにします。
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