|
2)ついにハモった瞬間
前回は、ピアノという調律が固定されてしまっている楽器でも、弾き手によっては美しく響いたりしなかったりするというお話がメインでした。
その極地がムジカノーヴァの記事にあった、研ぎ澄まされた聴覚が「求める」とどこからともなく聴こえてくる不思議な倍音の発生ということになるのでしょう。私は、前回の体験とこの記事とから、
「耳をひらく」ことが重要であるということもさることながら、自分の欲しい音を「求める」気持ちも劣らず重要なことと認識したのでした。合奏しながら、「美しいハーモニーになって欲しい」と願い、「自分の出しているこの音よ、全体のハーモニーの中へ溶け込んでくれ」・・・と、まるで祈りにも似た気持ち・・・。やはり・・・、私のような技術畑出身の固い頭にも、このようなある種の精神的なエネルギーの必要性を認めざるを得ません。
実は前回のレッスンでは、このピアノの響きと言う点に目を奪われた格好で、 ちょっと書き漏らしていることがありました。それは、肝心の分離唱についてのことです。分離唱、もちろんレッスンして頂いていました。しかし、あまりうまくいかなかったのです。先生に伴唱して頂きながらなら、うたえます。・・・まあこれは当然でしょうが、
伴唱なしでCEGのEをうたおうとしてもとんでもない音になってしまいます。でも、実際には事前に家で練習して行ったのです。 家では充分できるようになっていた・・・はずでした。それが先生の前ではうたえなくなっているというのは、やはり初回ということで緊張していたのかもしれません。今回は、2回目のレッスンということで、
かなりほぐれてきたように思います。 さて、どうなりますか・・・。
実は・・・まさに衝撃の体験を味わったのでした。
この日は何かやさしいヴァイオリンの曲をやりましょうと言われていたのです。 ということで、ヴァイオリンを持って先生のお宅へ・・・。
分離唱をやり、そして更に分離奏とハーモニーを感じて弾く練習・・・ということになります。
分離唱そのものは、前回より少しマシになったように思います。 しかし、まだ1オクターブ上をうたってしまったりします。それでも大分良くなったという先生のお言葉で、いよいよヴァイオリンによる「ハーモニーを感じて弾く」練習です。
私は鈴木の2巻を持っていきました。 ロングロングアゴーが、ハーモニーを感じて弾く曲としてぴったりと思ったからです。 まぁ・・・こんなんだったらいくらなんでも良い音程で充分弾けると思ってました。まずこの曲の調であるG
durの分離唱をやってから演奏に入りました。ヴァイオリンとピアノのアンサンブルということになりますね。別にどういうこともなく弾き終えましたが、先生の口から出てきたお言葉は・・・。
(a)音程が最初から低くそのまま最後まで行ってしまって気持ち悪かった。
(b)フレージングが滅茶苦茶。
(c)どう弾きたいのかがさっぱり伝わってこない。
(d)呼吸の仕方が悪い。
(e)いつ弾き始めるのかということからして全然伝わってこない。
とまぁ散々でした。(笑)
それでは次に分離奏をやってみましょう、ということで分離奏。 この分離奏というのがなかなか難しい。 分離唱とは全く違います。 声帯をコントロールするのと指で音程を調整するのとではまるで違います。
色々やっては見ましたがなかなか「ピッタリ感」が得られないのです。 これだけで30分〜40分かかりましたね・・・。
やっと「まぁいいでしょう。」のお言葉で、また弾きだしましたロングロングアゴー。 弾き終えた時の先生のお言葉は、どうだったか・・・。「今の、どう思いましたか?かなり良い音程になってましたよ。
フレージングもちゃんと出来ていたし、終わるべくして終わってました。」
え・・・?え・・・? 私はキョトンとした気分でした。 私にはその違いがまるで分からないのです。
前回のピアノでも、私には美しく響いているのかどうかということも分からなかった・・・。 これでは私の耳の性能はあまりにも悲劇的・・・と言わざるを得ません。
もう私には正直に「そうですか・・でも、自分では何も変わっていないと思います。」 と答えるしかありませんでした。 こんなやり取りが何回か続いた後、曲を換える事になりました。
今度はヘンデルのブーレです。 弾き終わると、今度も結構良い評価です。 しかしやはり「もう少し分離奏やりましょう。」 ということでやりだした分離奏・・・。
先生のお弾きになるピアノの和音に溶け込むように、 その中の一つの音を弾く分離奏・・・。 この分離奏で、今度は一瞬ですが「あれ?」と思ったことがあったのです。
一瞬、今まで感じたことのなかった・・・これがハモリ感? そのとき、音がふぁっと空中に伸びる感じがしたのです。 そう・・・突然音が生き生きした音に変貌したんです。
あれっと思いましたが、残念ながらほんの一瞬です。
・・あれぇ・・これはなんか来てるのかも・・・と言う予感・・・。 そして、もう一度弾きだしたヘンデルのブーレ。 このときです、すごい体験をしたのです。
残念ながらこれも一瞬ですが・・・。
ある音を弾いた瞬間、その音だけが突然生き生きと部屋中に響き渡ったんです。 まるでぱっと光り輝いたような気がしました。 え・・・?
演奏が終わると、先生はちょっと珍しく興奮したような面持ちで「それよ!それ!」 「なるほどこれですか!今度は私も分かりました!」
「そうでしょう!」
それは、まるでやっとやり遂げた大仕事を仲間と喜び合うような風情でした。 私に分かったのはその音だけでしたが、 先生は他にも良い響きの音がいくつかありましたよとおっしゃって下さっています。
これはどうやら、分離唱に分離奏を何回か回数を重ねているうちに、 少しずつ耳がひらいてきた結果ということのようです。 それになによりも、
2時間をゆうに越えるレッスンを熱心にしてくださった先生の、 「祈り」の気持があの音を引き出した・・・という気がします。 こうして少しずつ分かるようになっていくのかもしれない、
と思うとものすごく幸福な気分です。
それにしても、今日の体験は恐らく一生忘れることは出来ないでしょう。 う・・・む、そうか・・・ハモるというのはあの感覚なのか・・・・・・。
・・・ハモった時と言うのはこんなにも幸せな気分になれるものなのか・・・。 ハーモニーは生きる力・・・ということをしみじみ感じた一日でした。
|